【課題趣旨】
本講座では、前期の「絵画材料論」の講義を踏まえて、「絵画材料演習」と「美術史研究」の二つの観点から、模写を題材としてグリザイユ・カマイユ技法およびグレーズ技法の実習に取り組みます。
美術用語としてのグリザイユは、狭義でフランドル派絵画の多翼祭壇画(ポリプティック)の扉などに描かれた「トロンプルイユ(だまし絵:あたかも大理石像がおかれたかの如く精緻に描かれたもの)」を意味します。あるいは、油彩画の下層描きとして、モノクロームで明暗配置とモデリングを行う技法プロセスを指します。
しかし、グリザイユ技法は、テンペラなどのように古典絵画技法の一つとして独立したものではありません。その本質とするところは、「形」「明暗」「色彩」という絵画(平面表現)の造形要素を、下層から上層までのそれぞれの作画工程のなかで段階的に表出させることで、表現の精度を担保することにあります。つまり、単に「技法」というよりは、絵画工学上の概念の一つなのであり、今日に至るまで平面表現の中で広範囲にその原理が適用されてきました。本講座では、グリザイユ技法の制作プロセスを通して、支持体と各種水性・油性絵具の絵画諸材料の特性とともに制作を体系的に構築する見方を修得します。そして、表現と材料の不可分性について本質的な理解が獲得されることを期待します。
また、オールドマスターの作品の模写を通して、絵画の実践者として美術史と向き合う姿勢を身につけます。ここでは、西洋絵画技法史の観点から、16・17世紀の「ヴェネツィア派」および「第二フランドル派」とその展開に着目し、「ルネサンス」〜「バロック期」〜「ロココ期」〜「新古典主義」〜「ロマン主義」までを目安として、16世紀初頭から19世紀中頃までの絵画史を横断する作品群を受講生に提示します。受講生らがそれぞれの時代を分担して模写制作に取り組むことで、油彩の絵画芸術を基軸とした近世の西洋美術史の体系について考察する「美術史研究」の機会となるでしょう。
「The Museum of Copying Art(複製美術館)」と題した本講座は、「絵画材料演習」と「美術史研究」という二つの視座が交差する取組みを、いわば「自分たちで作り上げる西洋美術館」として捉えるものです。実習後には、各自が製作した模写を年代順に陳列した成果展を実施したいと考えています。
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